日々の暮らしをうつわにのせて 

略歴

京都教育大学 特修美術科彫塑専攻卒業
同学専攻科修了
イタリア国立ローマ美術学院彫刻科留学
帰国後彫刻から陶芸に転向
京都府立陶工高等技術専門校 陶磁器成型科卒業
竹村工房にて作陶修行

  • 1994 京都の自宅に初めての窯を築き作陶に専念
  • 1997 梨木神社能舞台にて初の展覧会開催(二人展)
  • 2003 京都 嵯峨越畑に工房を移転
    自宅、工房にて年一回のオープンアトリエを開始
  • 2003~2008 阪急梅田本店”くらしのアート”に出品
  • 2006 福岡三越 ” 篠原ともみくらしの器” 展
  • 2011 西宮阪急アートギャラリーにて作品発表
  • 2012 美山かやぶき美術館にて” 篠原ともみの器と李京姫のポジャギ展” 開催
  • 2017~19 阪急うめだ本店手仕事ギャラリーにて個展、三人展
  • 2017 料理家 栗原はるみさん来訪 haru_mi vol.45 2017 秋号 に掲載
  • 2018 haru_mi vol. 46 2018 冬号にて栗原はるみさんプロデュースの器を制作販売

作品展

  • 1997 京都梨木神社能舞台 二人展
  • 1999  神戸伊藤邸
  • 2000 ギャラリー吉祥堂 二人展
  • 2001~2003 雅春庵
  • 2001~2005 新神戸倶楽部/くらしの京都
  • 2002 日米婦人会アートショー
  • 2003~2008 阪急うめだ本店” くらしのアート” に出品
  • 2005 ギャラリー乃々(富山)
    MINERA 花器五人展
    ギャラリー吉祥堂 個展
  • 2006 福岡三越 個展
  • 2006 2008 2009 2011 2013 クラフトギャラリー集 個展
  • 2008 富山高岡 そのこ 個展
  • 2011 西宮アートギャラリー
  • 2012 美山かやぶき美術館 二人展
  • 2014 清滝ギャラリーTerra グループ展
    生野高校35期生大同窓会にて個展” 篠原ともみ小さな器展”
  • 2015 2016 2017 ギャラリー御中にて個展
  • 2017~2019 阪急うめだ本店 手仕事ギャラリーにて個展、三人展
  • 2017 2019 アートサロン蔵(京都清水) 個展
  • 2019~2021 オルス京 個展

ひとつ一つの作品に、誕生までのストーリーがあります。

篠原ともみのこと

「暮らしのひとつひとつを大切に愉しむことの中に私のうつわづくりはあります。」

うつわを使ってくださる人の暮らしにも、やさしい風が抜けるような心地よさを添えられたら。

そんな想いで、四季折々に豊かな暮らしがある京都の里山、越畑(こしはた)の風景と共に作品づくりをしています。

陶芸までの道

子どもの頃から、絵を描いたり、ものを作ったりするのが好きでした。 芸術に関わることがしたくて、大学で京都に来て彫刻を学び、その後イタリアへ留学。 入学したローマのアカデミア(美術学院)は学生のスト続きで休校ばかり。アカデミアで学ぶことをあきらめて、イタリア各地を旅しました。旅先で素晴らしい絵画や彫刻や建築 を見たこと、またイタリア人の友達の家庭で過ごした多くの時間は、後々私の生き方に多くの 影響を与えてくれました。

またその時期は、将来どのような形でものづくりを続けていくのかを考える時期でもありました。結婚もしたい、出来ることなら子育てもしたいと思っていた私は、生活とは別方向になりそうな美術彫刻をやめる決心をして帰国します。

「暮らしの中で、暮らしに近いものづくりがしたい。」

そこから始めたのが、陶芸でした。京焼の専門学校で学ぶ機会を得て、一年間基礎からろくろ成形の技術を学びました。当時陶芸は男性がやるものだったため、女性にとっては狭き門でした。

卒業後は陶芸家の工房でアシスタントとして3年間修業。 その後結婚して住み始めた京都の町家に初めて自分の窯を持ちました。土間を仕事場に、小さな裏庭に窯を築き、初めて自分の作品を自由に作れる場所を得たのです。

現在作陶している越畑アトリエにて。

自分の作風を求めて

陶芸を学び始めた頃は、どういう器を作りたいのか分からず模索する日々でした。 現在から過去の陶芸家の作品から古窯(こよう)といわれる焼物まで、多くの器を見る機会を得られたのは、 京都に暮らしてこそと言えるかもしれません。 もちろん京都以外の焼き物の産地にもあちこちと足を運びました。

模索する中で、何人かの作家の作品と出会ったことが、今の私のスタイルを作ってくれたと言えます。宋時代の器の品格と厳しさを教えてくれた先生。
対局してエネルギッシュでいて優しく、繊細に見えても大らかな作品を作るルーシー・リー。 決して同じものを作りたいのではなく、私の作る器の中にもその「美」や「力」や「佇まい」があって欲しいと言うのでしょうか。

今、私がうつわに求めることは、シンプルであること、控えめでありながらも堂々としていることです。料理をのせて、花を生けて完成する。何も載せたり生けたりしなくても、窓辺の風景や部屋の雰囲気と共に完成するものであることです。

土は半磁と細かい赤土を自分でブレンドしています。釉薬は微妙な厚みや数度の焼成温度の差で、色味や窯変の具合が変わる不安定な調合のものをあえて自分で調合しています。一期一会の焼き上がりや、意図を超えた思わぬ効果も、私の器の魅力だと思っています。

私の陶芸とエピソード

陶芸を始めたきっかけは、もともと器が好きだったことと料理が好きだったことでしょうか。
「器が好き、料理が好き、人をもてなすことが好き。」そんな私が料理を盛り付け、人をもてなすための器を作ろうと思い至ったことは、ごく自然なことでした。 結婚、子育てをする中でのものづくり。アーティストとして作品を作るのではなく、生活の一部としてのものづくりが自分に一番しっくりくるものでした。自分の窯を持ち、まず作ろうと思ったのは、日々の暮らしの中にある器、人をもてなすのに使いたい器でした。

そんな時、料理家栗原はるみさんのレシピ本に出会います。家族のための毎日の料理を愉しみ、何気ない日々の料理の延長で人をもてなす、はるみさんの料理のスタイルと器使いに深く共感しました。 そしてうつわづくりを続けて、いつかはるみさんに見てもらえる、使ってもらえる器を作れるようになりたいと思ったのです。

その想いは本当に20年後に実現します。栗原はるみさんのパーソナルマガジン『haru_mi』に20年の想いを綴って送った一通の手紙が、はるみさんを越畑の我が家の工房へと呼び寄せてくれたのです。

二日かけて行われた取材は『haru_mi』vol.45 2017 秋号で10頁の特集になり、『haru_mi』vol.46 冬号では、はるみさんのプロデュースで、私が作った4種類の器が扱われることにもなりました。

日々の暮らしの中にある器、人をもてなす器を作りたいという思いで、今も作り続けています。

カルボナーラ

数年来続けているブログ。うつわと大好きなお料理の組み合わせを発信しています。

越畑での暮らし

京都郊外にある自宅兼工房は、各部屋から越畑の棚田の風景が見渡せます。その景色の中に、子育てをし、小さな畑を耕し、器を作る私の暮らしがあります。

京都の街中から越畑に引っ越そうと思ったきっかけは、子育てでした。小さな町家は子育てと陶芸をするには手狭。息が詰まりそうになっていた時、夫がいつか住みたい場所があると連れてきてくれたのが越畑でした。アレルギーのある長男に、作り手の見える米や野菜を安心して食べさせられるのも嬉しいことで した。 夫のスケッチ旅行に帯同する時に、よく利用していたイタリアの農村ホテル(アグリツーリズモ)で の豊かな体験も、この移住を後押ししてくれました。

イタリアの農村で過ごした経験がきっかけに。

越畑に来て、見よう見まねで野菜の種をまき、花を育てるようになりました。 街から来た私の畑つくりの先生はご近所のおばあちゃんや下の畑のおっちゃんで、「トマトはわき芽を摘まないとあかんで。」と教えてもらったり、頂いたネギ苗に水をかけて笑われたり(ネギ苗は干して乾燥させておくものです)、畑仕事はご近所さんとの大切なコミュニケーションとなりました。季節の野菜のお裾分けを頂いたら、料理の仕方を聞いて、作ったものを持ってお返しに行く。小さな行き来の中で、気を遣わず遣わせない田舎のコミュニケーションのあり方を覚えていきました。

越畑では、周りの方々に助けられながら暮らしを続けています。 穏やかな風景に囲まれて、豊かな実りをいただき、共に子育てをし、器を作るここでの暮らしは、私にとってかけがえのない宝物です。

 

暮らしの一部にある陶芸

私のうつわは、日々色を変えてゆく季節の巡りと共にあります。

まだ寒さの残る春先に、届いた菜の花を辛子酢味噌で和えて供するトルコブルーの小鉢。 ご近所から届いた初なりのキュウリを、水キムチにして浮かべる涼しげな白い鉢。 温かいピーナツかぼちゃのポタージュを入れる、大きめのマグカップ。 厳しい冬の最中に咲く黄色の蝋梅を生ける白い一輪挿し。

「この料理を盛るためのお皿が欲しい。」、「この花に合う一輪挿しが欲しい。」そんなさもない思いつきが、新しい作品のイメージが生まれるきっかけとなるのです。

また、自然の形や色自体が器の造形のヒントになることもあります。

私の中では常に、仕事場は庭にも畑にもキッチンにも繋がっているのです。器を作るときは、生ける花のこと、お皿にのせる料理のことを考えています。目の前に咲いている花の蕾の具体的な形が器のラインに重なることもあります。

自然の移ろいと共にある越畑では、四季折々に実る野菜があり、咲く花があります。四季が巡り その季節のものを何度も目にする時、今度はこのためのうつわを作ろうと思うのです。

越畑では、周りの自然や人と共に自分の暮らしや器作りが成り立っていることを実感しています。 この里山での暮らしから生まれるうつわが、使ってくださる人にとっても、暮らしを愉しむパートナーになれば嬉しいです。

2021年秋